副社長と秘密の溺愛オフィス
「そっちの様子はどうなの?」

 気になって聞いてしまう。

『いきなり副社長秘書になったから、お姉さま方の視線が怖いです』

 あぁ、それもあった。

「嫌がらせ、されてるの?」

『いえ、今のところは。副社長が気遣ってくださって、本当に必要な時にしかわたしを呼ばないので、乾さんのときほどひどくはないです』

「そう……よかった。あの……副社長は元気でいらっしゃる?」

 何を聞いているのだ。仕事の心配ならまだしも、元気かどうかなんて……。

『はい。なにか色々と仕事をかかえていらっしゃるようなんですが、わたしにはよくわからなくて……昨日も寝ずにお仕事されていたようで、朝着替えにもどっていました。あ、もう行かなきゃ。ありがとうございました』

 すぐに通話は切れたが、わたしは電話を握りしめたまま彼のことを思う。

 ちゃんとご飯食べてるかな……。

 最後の夜に彼がおいしそうに、わたしの作ったご飯を頬張った姿を思い出す。

 自分から別れを告げたのに、いつまでこんなふうにうじうじ悩むのだろうか。

 わたしは頭をぶんぶんと振って、余計なことを考えないようにする。

 ――わたしがしたことは、正しいんだから。

 こんなふうに落ち込んではいられない。まだケジメをつけなくてはいけないことが残ってるのだから。
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