副社長と秘密の溺愛オフィス
 都内の高級住宅街。どの家も大きくて立派だ。その中でもひときわ大きくて高い塀に囲まれた日本家屋の前にわたしは立っていた。

 数日ぶりに着たスーツ姿で、手には菓子折を持ち緊張してインターフォンを押す。

--はい。

「わたくし、乾明日香と申します。奥様とお約束をしているんですが」

『うかがっております、どうぞ』

 ピッという電子音が響いて門が解錠される。わたしはおそるおそる中を窺うようにして、足を踏み入れた。

 日本造りの立派な庭が広がる。大きな池には色鮮やかな錦鯉が泳いでおり、植えてある木々も手入れが行き届いて
いた。

 玉砂利の中の飛び石の上を歩き玄関に向かうと、そこには約束をしていた紘也さんのお母様がわたしをでむかえてくれた。

 待たせてはいけないと慌てるわたしに「危ないからゆっくりいらっしゃい」と笑顔で迎えらえて、胸が痛む。

 わたしなんて優しくされる資格なんてないのに。

 お母様の前にたち、頭をさげた。

「お忙しい中、お時間をいただき申し訳ありません」

「いいのよ。どうせ暇してるんだから。あなたなら大歓迎」

 笑顔のお母様を見て罪悪感がつのる。自分を受け入れてくれた相手をわたしは裏切ったのだ。
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