副社長と秘密の溺愛オフィス
 わたしがまわりにびくびくしながら過ごしているのに対して、紘也さんはすでに乾明日香でいることに馴れたのか、のびのびと生活していようにみえた。

 すでに仕事のペースは事故の前と同じようにこなしているし、もともと人を使うのが上手な彼は、どの仕事においても各部署の信頼のおける相手に仕事を上手にまかせていた。よって会社での仕事は問題ない。

 彼は「俺がいなくても、会社は回るな」なんて言っていたけれど、そんなことはない。彼の脳内で描いたことを、華麗なる采配で各部署に回す。それができるのは、みかけはどうであれ、やはり彼が〝甲斐紘也〟であることの証明のように思えた。

 そんな彼の役に立ってないと思うと、落ち込みが激しくなる。なるべく考えないようにして、わたしにできる範囲で彼のサポートを頑張った。 

 社内会議をなんとか腹話術戦術で乗り切ったあと、くたくたになって副社長室に向かっていた。紘也さんは秘書課
に寄っていくと言ってその場を離れたので、ひとりで戻る。

「副社長!」

「ひぇ⁉」
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