副社長と秘密の溺愛オフィス
「キ、キスされた。女の人に」

 先日は紘也さん、今回はモデルのAKIKO。どちらも他人からすれば羨ましがられるかもしれない。わたしはまともなキスのできないのか。抜け殻のようになったわたしは、しばらく椅子に座ったままだった。

 すると廊下からバタバタと誰かが走ってくる音がして、またしても扉がバーンと開け放たれた。こうも日に何度も乱暴に開けられる扉の耐久性が気になるところだ。

 焦った様子で入ってきたのは、紘也さんだった。

「おいさっき、モデルのAKIKOがそこに……って、もう遅かったか」

 わたしのぶたれて赤くなっている頬と、真っ赤な口紅がべっとりとついた唇を見て、彼は頭をかかえていた。この状況で色々察したに違いない。

 ゆっくりと近づいてきて、わたしの顔を覗き込んだ。

「とりあえず冷やした方がいいな」

 そういって部屋を出ていった彼は、冷却材を持ち戻ってきた。そのころにはようやく現実世界にもどってきたわたしは、やっとまともに口を聞くことができるようになっていた。
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