副社長と秘密の溺愛オフィス
「痛むか?」

 紘也さんは心配そうにわたしの顔を覗き込みながら、頬を冷やしてくれる。吐息がかかるほどの近い距離にドギマギしてしまう。

「あの、自分でできますから」

 冷却材に手を伸ばしたが、彼はそれを拒んだ。

「じっとして。俺の大事な顔に傷でも残ったら大変だろ?」

 肩をすくめてみせる彼に、ちょっとがっくりしてしまう。

 結局そこなの?

 しかしそんな言葉とは裏腹に彼の表情は、わたしを真剣に心配している。

「悪かったな。こんなことになって」

 赤くなった頬に、そっと手を触れられ労るように撫でられる。

「大丈夫です。向こうは女性ですし」

「そうか……これくらいなら赤味もすぐに引くと思う」

 じっとみつめられて、自分の顔なのにドキドキしてしまう。なんだかいたたまれなくなってしまい、AKIKOさんが言っていた気になることを聞いてみた。

「紘也さん、あの方とおつき合いされていたんですか?」

「あ。いや、そんな事実はない」

「でも、向こうの方はそのつもりだったみたいですよ。わたしと付き合っていて手をださないなんて――いや、やめておきます」

 彼女の言葉の通りを伝えようとしてやめた。だって、そんな上司のプライベートすぎる話題には触れないほうがいいと思ったから。でも、彼はそんなこと許してくれない。
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