副社長と秘密の溺愛オフィス

⑩わたしたち婚約しました

「はぁ」

「はぁああ」

 ふたりして大きなため息を同時についた。そしてお互いの顔を見て、もう一度ため息。

 ため息をつくと幸せが逃げていくなんて言うけれど、今のわたしの体内に幸せなどあるのだろうか……。

「とにかく甲斐家で母親に逆らえるものは、ひとりだっていない」

 そんなはっきりと言い切らなくてもいいのに。

「何か方法は?」

「ないっ!」

 不可能を可能にする男と、週刊誌に囃し立てられた男の発言とは思えない。しかしそんな彼をもってしても、このパーティを中止にすることができないとなれば――覚悟するしかない!……のだろうけれど。

 まだ決心がつかないというのが本音だ。だってわたしたちは本当に婚約したわけじゃない、ましてや結婚するわけでもないのだから。

 その場をやりすごすための便宜上の婚約だったはずだ。それがこんな大きな話になるとは思ってもみなかった。わたしは自分の浅はかな考えに今更ながら後悔する。本当に自分の好きな人と〝嘘〟の婚約をすることになるなんて。

――ピンポーン

 絶望に打ちひしがれるなか、部屋のインターフォンが鳴る。ここにこんなふうに突然訪ねてくる人はそう多くはない。
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