副社長と秘密の溺愛オフィス
「事情はわかりました。痛みも引いてきましたし、もう気にしないでください」

 わたしが大丈夫だと伝えたけれど、紘也さんはまだ納得していないようだ。

「まだ疑っているだろ? もしかして、俺が色んな女と遊んでるっていう噂、君も信じてるわけ?」

「まぁ、その……あれだけ週刊誌等で騒がれたら、いやおうにもそう思ってしまうというかなんというか」

 正直な気持ちを伝えると、彼はがっくりと肩を落とした。

「三年間俺の秘書をしていて、気がつかないか? そんなに遊んでる暇なんてなかったはずだ。それに、昔はたしかにそういう時期もあったけど、ここ数年は誓ってそういうことはないから」

 たしかに、わたしは秘書になってからはずっと忙しくされていた。休日も接待だったり、出勤していたりも多く、夜もずいぶん遅くまで仕事をしていた。考えてみれば彼の言うとおりだ。

「そうでしたよね。すみません、変なふうに誤解していて」

「いや、分かればいいんだ。分かれば」

 言いたいことを言ってすっきりしたのか、自分のデスクに戻り引出しからチョコレートを取り出して、口に放り込んだ。もう、わたしに許可も求めてこない。

 切り替えの早い彼は、わたしが先ほど用意した新規のリゾート開発の資料に目を通している。その様子からは、噂のようなチャラチャラした様子など微塵も感じられなかった。

 わたしは一体今まで彼の何を見ていたのだろうか。こうやって真剣に仕事に取り組み、会社と社員を大切にする人だということはわかっていたはず。だからこそ彼に惹かれ、ずっと片想いをつづけてきたのだ。

 それと同時にこれ以上恋心を大きくしないために、彼が女性にだらしないと思い込もうとしていたのかもしれない。そうすれば自分には合わないからと、言い訳が出来るからだ。

 そもそもわたしなんか見向きもされていないのだけれど……。

 でも入れ替わってみて、彼の素晴らしさを身を以て感じることになった。こうなってしまった以上、彼への思いを
否定することなんて到底無理だ。

 心の中でくすぶっていただけの恋、既に潮時を迎えたはずなのに、諦めの悪いわたしの恋はこの数日でどんどん大きくなっていった。
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