副社長と秘密の溺愛オフィス
「おふくろだろうな」

「えぇ」

 ふたりしてもう一度盛大なため息をついて、お母様を部屋にお通しした。

 玄関から入ってきたお母様はおひとりではなく、きちんとした黒いスーツを着た女性を数名連れてきていた。その中にひときわ大きな美しい女性――?

「いやぁああん! かわいいっ!」

 その想像以上に低くていい声を聴いたわたしは、彼がこの世に生を受けた瞬間の性別は男だったのだと悟った。

 い、いったい誰?

 わたしの疑問を察知した紘也さんが、ボロが出る前に先に動き出した。

「はじめまして、乾明日香です。弟の幹也(みきや)さんですよね?」

 そうか、弟か……。え? この人が?

 紘也さんに弟がいることは知っていた。会社の経営には一切携わっていないので、顔を見るのは初めてだったが、想像の斜め上をいっていて、驚きを隠せない。

「あら、アタシのこと知ってるのねぇ。うれしいわ」

「はい、お噂はかねがね。クレールのドレスを身につけると誰でもシンデレラになれると、日本でも評判なのですよ。先日もパリのコレクションでご活躍だったとか」

 ク、クレール!?

 クレールといえば今世界を席巻するブランドのひとつだ。

超有名ハリウッドスターが世界的な映画の授賞式で身に付けたことから火がつき、今となっては世界のトップブランドのひとつとなっている。
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