クールアンドドライ
 言っててちょっと虚しくなった。
私の元カレは、1人しかいない。
その当時の私は、とにかく焦っていた。
周りが皆、経験済みになっていく中で、自分だけ取り残されているようで。
処女だと、堂々と言えなくなってた。
 要は、処女を捨てたくて、合コンで出会った男と付き合うことにした。
今思えば、そこまで焦ることじゃ無かったんだろうなぁ。
だから、結局あんな別れ方をしてしまったんだ。
 
「良くわかんねーけど、遅くまで呑むなよ。今、お前に送ってくれるような彼氏は居ないって事は、判ったから。」

「はぁー、仰る通りです。でも、この辺治安が良いから、大丈夫ですよ。結構遅くまで、明るいし。」

 私の住んでるアパートは、繁華街と住宅街の間にある。女性の1人暮らしも多いアパートだ。
 「もう少し、危機感を持て。」課長は、呆れたように言った。
「何のために、会社まで徒歩で通える物件探したと思ってるんですか?」
「まさか、遅くまで呑むためか?」
「その、まさかですよ。やっと念願の1人暮らしですよー。短大卒業して、二年経って、やっと実家から解放されたんですよ~。ああ、でもまだ、1人で通えるバーは、開拓出来てないんですけどねー。」
「しなくて良いと思うぞ、それ。」
「なんで、皆そう言うんだろ?」

 そう言ってるうちに、アパートの前まで来た。
「ありがとうございました。」と、ペコリと頭を下げた。
「ああ、あまり遅くまで呑むなよ。じゃあな。」そう言って、頭をぽんぽん撫でてから、課長は帰って行った。
ちょっと、彼氏っぽくって、ドキッとした。
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