クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「私を見てるとイライラするんでしょ?」

「そうだね。でもどうせ目に入るなら、可哀相な優姫を見て面白がることにするよ」

「性格悪すぎっ」

 彼に憧れている男子や想いを寄せている女子が知ったらどう思うか。可哀相なのは私ではなく、どう考えても、彼らの方だ。

「今更? でも、ちゃんと夢を見させてあげてるだろ。覚めなければそれは夢じゃない」

「そんなので、楽しい?」

 彼に対する遠慮もなく私は純粋に聞き返した。すると桐生くんはどこかつまらなさそうな顔になる。

「楽しいわけないだろ。だから優姫が精々楽しませてくれることを期待するよ」

 そんなものを勝手に期待されても困る。元々彼と必要以上に関わるつもりもなかった。さらに、彼の裏の顔――いやこっちが本物かは謎だけど――を見て、ますます彼とは関わらない方がいいと強く思った。

 私とは立っている場所も見ている世界も違いすぎる。……それなのに。

 私は彼の右手の中にある本に視線を向ける。

「来週の木曜日、絶対に返してね。私、まだ少ししか読んでないんだから」

 人質ならぬ本質だ。私の返答に桐生くんは満足そうに笑った。

「約束するよ」

 本当におかしな始まりだった。けれど、私たちはそれから毎週のように、この図書館の五階でふたりで会うことになった。
< 40 / 129 >

この作品をシェア

pagetop