クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「っ嫌い。大っ嫌い!」

 衝いて出た言葉を彼にぶつけて踵を返す。背を向けようとした刹那、私の目に映ったのは、なんとも言えない顔をした幹弥だった。

 いつも自分勝手で、人のことを見下したような目で見てばかりのくせに。あんな表情見たことない。まるで傷ついたような……。

 私もどうしてこんなに胸が痛むのか。少なくとも幹弥に指摘されるまで、一馬に言われたことは頭になかった。多少はショックだったけど、この痛みの原因はそれじゃない。

 山下さんみたいにネックレスが似合うような女性だったら。なんの躊躇いもなく身に着けられる自信が自分にあったら。もらったことを堂々と人に言えて嬉しそうにできる素直さがあったら。

 染みのように広がっていく黒い感情。こんな気持ちは知らない。

 この日を境に私は図書館の五階に足を運ぶことはなくなった。ずっと探していたシリーズの本も読みかけだったのに。

 結局、幹弥とは会うことも話すこともなくなった。ゼミは一緒だったけれど、彼の周りにはいつもたくさんの人がいて、私とは研究グループも違っていたし。

 隣に山下さんが座っているのを何度も目にしたけれど、詳しい関係は知らないし、知ろうとも思わない。

 壊れたわけでも失ったわけでもない。戻っただけ。これが当たり前だったんだ。

 彼にとって私とのつながりがなくなったところで、なにも困ることなんてないだろうし、幹弥にとって私は、あまりにも取るに足らない存在だったんだと思う。
< 63 / 129 >

この作品をシェア

pagetop