運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「あの……」
「あ、いや、ゴメン。悪魔が相手じゃ、そりゃ逃げたくもなるよな。でもきみは幸運だ。俺という、運命の相手に出会えたんだから。悪魔だって、運命の二人には敵わないよ、きっと」
彼は先ほどの謎めいた笑いを引っ込め、私を安心させるように言い聞かせてくれる。何かが胸に引っかかったような気がしたけれど、深く考えずに笑顔を返す。
そうだよね。今は、運命の相手がそばにいるんだもん。悪魔なんかに負けてたまるもんですか。
しばらくして料理とコーヒーが運ばれてくると、私たちは食事をしながらお互いのことを話した。
彼は天河(てんが)さんという苗字で、歳は三十一歳。ベネチアには深夜に到着したばかりで、このカフェからも近いホテルに滞在しているのだという。
「あの、お仕事は何をされてるんですか?」
「仕事? 仕事……うーん……放浪の画家、みたいな?」
自分のことなのに歯切れの悪い返事をする天河さんがおかしくて、私はクスッと笑う。
「なんで疑問形なんですか?」
「いや、そこまで考えてなかった……じゃなくてほら、ちゃんとした会社勤めとかじゃないから、人に話すのはちょっとためらうというか」