運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「ところで」
藍澤先生が再び二人の方に向き直り、今度は工藤さんを挑発するように見据えて口を開く。
「同じ男として工藤さんにモノ申したいんだけどさ、好きな女性にアプローチするのに、こんな回りくどいことをする必要ないんじゃない?」
「……何もかも恵まれているあなたに、何がわかるんです」
今まであまり言葉を発しなかった工藤さんが、忌々しそうに答えた。
「僕はごく平凡な家柄のしがない秘書です。ご実家が大病院で、ご自身も優秀な医師であるあなたと違って、美琴お嬢様にふさわしい地位は持ち合わせていない。だから……正当な方法を選ぶことはできなかった」
「工藤さん……」
まさか、彼がそんなコンプレックスを抱えているとは知らなかった。家柄とか地位なんて関係なしに、私はいつでも優しく面倒見の良い工藤さんの内面を慕っていたのに……。
初めて明かされた彼の心境にズキっと胸が痛んで顔を俯かせる。
「だから、その考えがそもそも間違いなんだ。美琴ちゃんはさ、そんなことで人を判断したりしないよ」
「……なぜそんなことがわかるんです」
工藤さんが、ぶっきらぼうに問いかける。私も藍澤先生がそんな風に言ってくれる根拠が聞きたくて、思わず顔を上げた。