運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~


「……でも、病のことを相談したらすぐにでも仕事を休んで手術することを勧められて……彼のそばに居たかった私は、それをかたくなに拒否してた。そんなことを続けていたら、代わりの副院長候補として、院長があなたを連れてきたの」


……ショック、だったんだろうな。俺に居場所を奪われた、と。

でも、院長は別に彼女に愛想をつかしたわけではなく、むしろ心配だったからこそ、そんな強硬手段に出たのだ。


『きみには何としてでも副院長になってもらう。現副院長の北条先生は無慈悲だと思うかもしれないが、このまま仕事を続けていたら彼女の命が危ない』


俺がここに赴任する前に、院長から言われた言葉だ。彼は、北条先生がどうして手術を拒むのかわからず、困り果てていた。

だったら俺が執刀すると言ったのだが、それは北条先生本人に拒否されてかなわず……結局は彼女が病院を辞めてアメリカで手術をすることになり、院長もそれで渋々納得した。


「彼が心配してくれているのはわかっていたけれど……それは完全に同僚として。当然のことなのに、それがとてもつらくて……最近では、死んでもいいと思うようになっていたわ。家族も恋人もいないし、私が死んで悲しむ人なんて誰もいないもの」


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