運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~


ふ、と自嘲をこぼす彼女。彼女には肉親がおらず、恋い焦がれた相手とも、結ばれる見込みはない。その境遇は確かに寂しいものだろうけど、北条先生が築いてきた人間関係は、それだけじゃないはずだ。

俺は医者として真剣に彼女を見つめ、言い聞かせる。


「誰も悲しまないなんてことは、絶対にありません。短い間だけど、俺はこの病院であなたが患者さんからどれだけ信頼されているのかを見てきました。前の病院できらわれ者だった俺と違って、あなたを悪く言う同僚を見たこともない」


俺自身があまり周りとうまくやれないタイプだからこそ、彼女のそういう面を尊敬していた。

副院長業務を少しずつ任され始めている今も、北条先生だったら円滑にスタッフとの連携が取れていたのに、俺ではまだ至らない部分ばかりで、反省することも多いから。


「それに、美琴ちゃんだって……あなたが倒れたとき、パニックを起こしていました。そして、必死に俺に“早苗先生を助けて”って。あなたを必要としている人はたくさんいるはずです。……生きてください、北条先生」


つい熱くなり、一気にまくし立ててしまったが、彼女は窓の方を向いたままなかなかこちらを振り向かない。

同じ医者として命を粗末にするような発言はどうしても聞き流せなくて、あれこれ口を出してしまったが……彼女にとって俺はただの主治医。

いくら説得しても、彼女の心の奥にまでは届かないのかもしれない……。そう、諦めかけたとき。


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