運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「いいよ自分で挨拶するから」
「そういうわけにはいかないの。昔からのお付き合いなんだから、娘に貰い手ができたって先に連絡しておかないと」
話している最中から、すでにエプロンのポケットから携帯を出して電話をかけ始める母。
こうなった母はもう私なんかには止められない。山翡翠への連絡は仕方なく任せることにして、私は自分の支度でもしよう……。
「おはようございます~。神鳥ですけれども、突然ごめんなさいね。ええ、ご無沙汰してます~」
さっそく、不自然なほどよそ行きの声で話し始めた母に背を向け、私はキッチンを後にした。
自分の部屋のクローゼットの前で、何を着て行こうかしばらく悩む。どうせ温泉に入っちゃうし、適当でいいのかな……うーん。
結局、黒のニットに花柄のフレアスカート、その上にショート丈のトレンチを羽織ってなんとなく出来上がったけど、自分で思った以上にデートっぽさが前面に出ててなんだか照れる。
二日酔いの顔色を隠すためメイクを濃くしたら、余計に気合入りまくりな雰囲気になってしまったし……。まあいいか。
「美琴~! 先生来たわよ~!」
「えっ。わかった、今行く」