運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
急いで階段を降りると、玄関にはすでに藍澤先生の姿があり、母と談笑している。
彼の服装は、グレーのロングカーディガンに白のカットソー、細身のデニムを合わせたシンプルな大人カジュアル。……全く、何を着ても画になるんだから腹が立つ。
「じゃあ、思い出の旅館なんですね」
「そうなのよ~。恥ずかしいから美琴には話したことないんだけど」
聞こえてきた会話の内容はよく分からないけれど、母はなぜか頬を赤く染め、照れた様子でもじもじしていた。いい年してなにを可愛い子ぶってるんだろ……。
怪訝な顔で近づくと、母より先に藍澤先生が私に気付く。
「おはよう、美琴ちゃん。今日も可愛いね」
悪魔オーラはいっさい感じさせない、爽やかな笑顔が眩しい。
うちの親の前ではいつも猫かぶるんだから……。呆れた私は、思わず棘のある言葉を返してしまう。
「……先生こそ、今日も見え透いたお世辞が絶好調ですね」
「美琴! 先生に失礼なこと言わないの!」
母が思わず割って入るけれど、当の本人は余裕の表情。
……まあ、そうだよね。こんなちっぽけな攻撃ではひるまないから悪魔なのだ。
そんなことを思っていると、藍澤先生は私の服装を上から下まで改めて眺め、きっぱりと言う。