運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが」
あれ? 日本語……?
背後から掛けられた男性の声に振り向いた私は、思わず息を呑んだ。
どうやら日本人らしい、すらりとした黒髪の長身男性。
身長は百八十センチくらいあり、アシンメトリーにセットされたヘアスタイルがお洒落。横に流された前髪からは、直線的な凛々しい眉とたれ目がちの甘い瞳がのぞいている。
か、カッコいい……。まさか、ようやく私の運命の相手現る、的な?
思わず、都合のいい展開を思い描いて胸を高鳴らせてしまう。
「この、ホテルの場所を教えて欲しいんです」
低い声だけれど、柔らかく優しい印象の話し方でそう言いながら、男性が手にしていた地図を見せてきた。ぽわんとしていた思考が、一気に現実に戻ってくる。
いかんいかん、ベネチアにいるからって、映画の主人公気分が過ぎるな。きっと彼は同じ日本人の私を見つけて、道を尋ねてきただけだ。
「ここなら、ええっと」
彼と同じ方向から地図をのぞき込み、人差し指でとりあえず現在地を示そうとした瞬間。
「……っていうのは嘘で」
へ? 嘘……?