運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「本当に、食べたり飲んだりしてるだけでいいんだよね?」
「ああ。俺も母さんが心配だから、適当に挨拶を済ませて早く切り上げるつもりだ」
「ならよかった」
父に連れられてこういうパーティーに参加したことが数回あるけれど、大人たちの汚い見栄や媚や皮肉にあふれていて、居心地が悪くて仕方ない。
ただ食事はいいものが出るので、今回もそれだけを楽しみにしている。
会場に着くと、すでに数百名の人々が集まって、思い思いに挨拶を交わしたり談笑したりしていた。
大きなシャンデリアの下にステージといくつかのテーブルが置かれ、ホテルの従業員が忙しく料理の準備をしている。
そんななか、父が会場内に知った顔を見つけたらしく、片手を上げながらひとりの初老男性の方へ近づいて行った。
「どうも、いらしてたんですか中谷(なかたに)先生」
「おお、神鳥。どうだ、藍澤は元気でやってるか?」
いきなり会話の中に“藍澤”という名が登場して、私の耳がダンボになった。
この中谷という人は、藍澤先生と知り合いのようだ。先生ということは、おそらく彼も医師なのだろう。