眠らせ森の恋
 



 なにがお駄賃だ、と思いながら、西和田は淡い黄色の小さな袋に入った飴を眺めながら、廊下を歩いていた。

 すると、会議室のお茶を片付けている途中らしいつぐみに出くわす。

「ほれ」
とよろよろとつぐみが運んでいる大きなお盆に社長がくれたレモンの飴をカン、と投げ入れると、

「おっ、お疲れ様です」
とつぐみが顔を上げた。

「あんたの旦那はわからんな」
と言っていこうとすると、

「西和田さん」
と呼びかけられた。

「そういえば、専務に、私たちのこと、ご報告なさいました?」
と訊かれる。

 ……そういえば、言ってないな。

 なんでだろうな、と思いながら、西和田は、いや、と言う。

「まだ別れるかもしれんだろ」
と言って歩き出し、後ろ向きのまま、つぐみに手を振った。






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