眠らせ森の恋
「ただいま」
その日、帰ってきた奏汰は機嫌が悪かった。
「おっ、お疲れさまでーす」
と普段はしないのに、鞄など受け取ってみる。
さっさと歩いていってしまう奏汰の後をついて行きながら、
「お食事になさいますか?
それともお風呂――」
と言うと、奏汰は最後まで聞かずに、
「そこは、それとも私? だろうが」
と言ったあとで、振り返り、
「誰が凶悪で、全然人の話を聞かないんだ?」
と言ってきた。
あー、やはり、聞いてらっしゃいましたかー、と不気味な微笑みを浮かべながら、揉み手をしていると、奏汰は、いきなり、つぐみを抱き上げた。
うひゃっと短く悲鳴を上げると、
「もうちょっと色っぽい声は上げられないのか」
と昼間店で見たのと同じような渋い顔で言ってくる。