眠らせ森の恋
 ほっとして、去ろうとすると、いきなり腕を引っ張られる。

 そのまま、湯船にお尻から突っ込んだ。

 ぎゃーっ、と思いながら、思わず目を開けると、奏汰の顔が目の前にあった。

「びっ、びしょびしょじゃないですかっ」
と文句を言うと、

「いいじゃないか。一緒に入れ」
と言ってくる。

「いっ、嫌ですっ」
 じたばたして逃げ出そうとするが、肩を強く捕まれ、逃げられない。

 そのままキスされそうになり、つぐみは思わず、奏汰が浴槽の縁に置いていたグラスをつかんでいた。

「うわっ、莫迦っ。

 やめろっ。
 風呂でそれはっ。

 出血多量で殺人事件になるだろうがっ」

 そう叫んで離してくれた。

 浴槽から飛んで出たつぐみは、肩で息をしながら、
「あ、危ないとこでした」
と呟く。

「莫迦か。
 俺が危ないとこだった……」

 婚約者にキスして殺されるとかどうなんだ、と呟いていた。





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