眠らせ森の恋
 



 つぐみがとととととっとあのいつも何処か不安定な走り方で走り去るのを奏汰は見た。

 今、階段下から出て来たな、と思い、行ってみると、あの紙袋の上に本が一冊伏せてある。

 『催眠術 ~あなたは段々、眠くなる~』

 ……おい。

 つぐみの作った、程々美味しい食事をとっていると、つぐみがカウンターの辺りから、
「お酒はどうですか?」
とあの妙な笑顔を浮かべ、近づいてきた。

「さっき呑んだからいい」
 そう素っ気なく言うと、ちぇっという顔をする。

 すぐ思っていることが顔に出るつぐみを見ながら、こいつは暗殺者にはなれそうにないな、と思っていた。

「……俺がお前に作ってやろうか」
と言うと、えっ? とつぐみは嬉しそうな顔をする。
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