眠らせ森の恋
「あ、貴方はだんだん眠くな~る」
と目の前で、わざわざ縛り付けてきたのだろうか、紐に吊るされた五円玉を振り始めた。

 古典的だな。
 さすが図書館の本、古いようだ、と思いながら、じっと見つめていると、その向こうで、つぐみがやたらと真剣な顔で五円玉を見つめている。

 お前が寝るなよ、とちょっと笑いそうになってしまったがこらえた。

「ね、眠くな~る」
 寝ない自分に焦ったように、つぐみは激しく五円玉を振り、身を乗り出してきた。

 ……近いぞ、つぐみ。

 こいつから、こんな積極的に自分に近づいてきたことはないような、と思いながらも、なんとなく後ずさってしまう。

 だが、
「眠くな~るっ!」
ともはや、催眠術というより、寝ろっ、と命令する勢いで近づくつぐみは、自分をほぼ押し倒していた。

 嬉しい以前に怖いっ。

 今、眠らないと、何処からか、束にしてある五円玉を出してきたつぐみに撲殺されそうだっ!
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