眠らせ森の恋
 



 奏汰が家に帰ると、つぐみは猫の子のように、毛糸と戯れていた。

「なにをしている……」

「あっ、おっ、お帰りなさい」
とつぐみは一拍置いて、振り返り言う。

「すみません。
 絡まっちゃって」
とぐるぐる巻きになった毛糸を手に苦笑いしていた。

 奏汰は溜息をつき、
「わかった。俺が解いておくから、夕食の用意をしろ」
と言う。

「ありがとうございますっ。
 今日はお寿司と天ぷらですっ」

 寿司と天ぷら?

 江戸の屋台か、と思ったあとで気づいた。

「……お前、まだ、江戸から頭が離れてないな」
と言うと、ははは、と笑ったつぐみは、

「バレましたか」
と言う。

 毛糸を解いて、ついでに編み図を見ながら編んでいると、つぐみが、ああっ、とそれに気づいて、キッチンから文句を言ってくる。

「私が編むんですーっ」

「うるさいっ。
 お前、また間違えてるじゃないかっ」
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