眠らせ森の恋
「お前ら、まるで、俺が居ないかのように語ってするが――」
と口を開いた奏汰に、つぐみが、

「体調管理できない人にいろいろ言われる筋合いはありません。

 西和田さんにも松本部長にもご迷惑おかけして」
とピシャリと言うと、ぷっ、と松本が笑う。

 だが、更に奏汰のテンションが下がってしまったので、まずい、また風邪が悪化するかな、と密かに思っていた。

「大丈夫だ。
 本番は別人のように華麗に決めるから」

 そう強がる奏汰に、つぐみは廊下の先を見、

「本番は二分後です。
 扉は目の前です」
とつれなく言った。

「松本部長」
と振り返ると、再び、はいっ、と松本が勢い良く返事をしてくる。

 ……だから、あらたまらないでください、と思いながら、つぐみは、
「代わります」
と言った。

 実際歩くのを見て、やはり、此処から自力で、というのは無理だな、と思ったのだ。

「私が社長を支えます。

 西和田さんも扉を開けたら、少し離れてください。

 私なら言い訳が立ちますから」
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