眠らせ森の恋
 座ってしまえば、もう大丈夫だろう。

 本人が言うように、さも元気そうにハッタリをかませる。

 だが、西和田はともかく、このまま自分が去ったら、あれ、なんだったんだとざわつきそうだと思い、つぐみは奏汰の腕をつついた。

「しょーかいしてくださいっ」
と小声で言う。

 は? とやはり少し頭の回転が鈍くなっているのか、自分の意図が読めないのか、奏汰が訊き返してくる。

 うむ。
 一緒に暮らしていても、ツーカーな感じにはいかないようだ、と思いながら、つぐみは言った。

「私を皆さんに紹介してください。

 此処に居ても、おかしくないように。

 さっき、松本部長にしたみたいな余計なセリフ入りのはなしですよっ」

 だが、奏汰は戸惑っている。

 いいのか? という顔をしていた。

 この間、一秒いっていないと思うが。

 社長っ、ご存知でしょうが、一秒って長いんですよっ。

 前に出た途端に黙り込む社長に不信感を与えるには充分ですっ、とつぐみは思う。
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