眠らせ森の恋
 そんな感情を押し隠し、つぐみは前を向くと、にっこり微笑んだ。

「皆様、初めまして。
 秋名物産、秋名雅広の娘、つぐみでございます」

 父親の名前を出したせいで、会場がざわつく。

「この度、白河様のご紹介により、半田奏汰さんと結婚させていただくことになりました」

 ええっ? という顔で、奏汰と西和田が見る。

 いや、貴方がたが驚かないでください……。

 だが、白河の名前の効果は此処でも絶大だ。

 過去、なにをやってきたんだ、あのじいさん、と思いながらも、つぐみは微笑みを絶やさなかった。

「結婚する相手の会社のことも知っておくべきだと社長に言われまして。

 ただいま、秘書として、研修中です。

 ドジばかりしておりますので、此処で一発、自分で挨拶してみろと社長に言われまして、恥ずかしながら、出て参りました。

 皆様、今後とも、どうぞよろしくお願いい致します」
とつぐみは頭を下げた。

 パラパラと数人が手を叩き、そのうち、それが満場の拍手に代わった。

 少し照れたように語るつぐみのつたなさに、みんな我が娘でも見ているような気分で応援してくれたようだった。

「では、失礼致します」
と言って、つぐみは奏汰を見た。

 もう大丈夫ですね? という意味で見つめたのだが、奏汰は自分を見下ろし、
「……つぐみ、結婚してくれ」
と言ってきた。
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