過保護な御曹司とスイートライフ


なにを作ってもパクパク食べてお皿をキレイにしてくれるのは、作り手としてはとても嬉しいことなんだと、それもここでの生活で初めて知ったことだった。

食器を洗い、お風呂をためている間に洗濯物を畳む。
先日、慶介さんとしたように、成宮さんと一緒にソファで洗濯物を畳みながら……話を切り出した。

「成宮さん、自分のことでは怒らないのに、ひとのこととなると案外沸点低いんですね」

浴槽にお湯を張る、わずかな水音が聞こえるなか少し笑うと、成宮さんは納得いかなそうな顔をする。

「そんなことねーだろ。短気とか誰にも言われたことねーし」
「でもさっき、今にも殴りかかりそうな顔してたので。……成宮さんのあんな怖い顔、初めて見ました」

畳んだタオルを積み上げながら言うと、成宮さんが「それは、おまえだからだろ」と当たり前みたいに言うから、「え?」と思わず声がもれた。

「おまえのこと悪く言われたら、さすがに黙ってらんねーに決まってんだろ」

当然だろ、とでも言いたそうな口調に、一瞬言葉をなくしてしまってから、ハッとする。

まるで特別だと言われているような気がしてしまったけれど、そういうわけじゃないんだろう。
一緒に暮らしたりしているから、情でも移っただけだ。

「もう随分こうして一緒に過ごしてますもんね。私、昔学校のうさぎを一週間だけ預かったことがあったんですけど、お世話したのなんてたった一週間なのに離れるときすごく寂しくて……」

ややパニックになりながらぺらぺらと口を回していると、成宮さんが私の考えを見透かしたみたいに「言っとくけど、情とかそんなんじゃねーから」なんて言いだすから、なにも言えなくなってしまう。

混乱しているのに、今度は声も出ない。

だって……情じゃないなら、なに?

じっと私を見つめる瞳に、期待から胸が膨らんでいき、苦しさでどうにかなりそうだった。

ドキドキするごとに期待が弾きだされ、身体が震えそうで……どうしたらいいのかわからない。

こんな気持ち……知らない。
こんな苦しさ、今まで感じたことなんてない――。



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