過保護な御曹司とスイートライフ
「見た目についての発言は、今の社内規則では充分セクハラに――」
言い切らないうちに、ガシャンッ!と大きな物音がして肩がすくんだ。
パイプ椅子を蹴り上げた棚田さんが、ギロリとした目つきで私を見る。
怒らせたということは疑う余地もなかった。
「セクハラとか、どの口が言ってんだよ。見た目がなんだって? 地味だから地味だって言っただけだろうが! 副社長に告げ口とかふざけんなよっ! 俺の出世が遅れたらおまえどう責任とるんだよっ」
さっきまでぺらぺらと出てきていた言葉がぴたりと止まる。
険しい顔で怒鳴られたらもうダメだった。
昔、父親が怒鳴り散らしていた頃のことが一気にフラッシュバックし、怖くて仕方なくなる。
「黙ってないでなにか言えよ! 聞いてんだろっ」
棚田さんがまたパイプ椅子を蹴り上げる。
その大きな音に頭の中がただ恐怖一色に染まっていたとき、「うわー、すげぇもんが撮れちゃった」と場にそぐわない声が聞こえた。
ふたりきりだったはずの会議室。ゆっくりと視線だけ移すと、ドアを開けた慶介さんの姿があった。手にはスマホが構えてある。
呑気な笑顔を見せる慶介さんは、こちらに近づいてきながらスマホを下ろした。
「いやー、ただ忘れ物とりにきただけだったんだけど。まさか棚田さんが鈴村さんを脅迫してるシーンが撮れるなんて思わなかったなぁ。これ、この会社の社長に見せたらどんな処分が下るのか興味深いよね」
ニコニコしながら言う慶介さんに、棚田さんは慌てた様子で口を開く。
「竹下副社長……っ、いや、あの、これには事情がありまして……」
「事情って?」
「その……鈴村が仕事のミスを自分に押し付けてきたものですから、それを注意してただけで……」
〝竹下副社長〟と呼ばれた慶介さんは「へぇ」と穏やかな声で相づちを打ったあと、首を傾げる。