過保護な御曹司とスイートライフ
「俺、鈴村さんと知り合いなんだけど……どう考えてもそんな子じゃないんですよね。まぁでも、棚田さんが本当にそうだって言い張るなら、事実関係を確認するように社長に頼みましょうか」
棚田さんは、まさか社長にまで話がいくとは思わなかったのか「あ、いや……あの」としどろもどろになる。
そんな棚田さんに慶介さんはにこやかに続ける。
「遠慮することはないですよ。本当にそんな事実があったのなら、見過ごすわけにはいかないですし。報告した方が社の今後のためにもなるでしょう。ってことで俺の方からこの動画を添えて社長に報告――」
一貫して穏やかな対応を見せる慶介さんに、棚田さんが「待ってください……っ」と青い顔をして言ったのはそのすぐあとだった。
「とりあえず、この話は副社長に通しておくから。これ以上みっともなくいいわけを探したりはしないように」
そう宣告を受けた棚田さんは「はい」と力なく返事をし、そのまま会議室をあとにしようとした。けれど、蹴とばしたままの椅子を片づけるよう慶介さんに言われ、そそくさとそれらを片づけて今度こそ部屋をあとにした。
その様子を見た慶介さんが、小さくため息を落とし「あいつクズだなー」と呟いたあと私に視線を移す。
「あれ? 大丈夫? 腰抜けちゃった?」
「……はい。なんだか、立てなくなっちゃって……」
慶介さんが慌てて駆け寄ってきて、手を差し出してくれる。
そこに重ねようと私も手を出して……でも、その手をバッと身体のうしろに隠した。
震えてしまっていたから。
自分自身を情けなく思い「あ……すみません」と謝った途端、今度は涙がポロッと零れだすから、「本当にすみません……っ」と慌てて涙を拭く。
さっきの出来事はとても短い時間でしかなかったのに……長い緊張からやっと解放されたようなおかしな感覚だった。
酸素の薄い場所に閉じ込められていたみたいに呼吸も荒くなっていた。
はぁ……と浅い呼吸を繰り返していると、慶介さんは「いや、全然」とにこりと笑い、私の肩を掴むとそのまま立ち上がらせる。