過保護な御曹司とスイートライフ
『今日の夕飯なに?』
ふいに成宮さんの声が聞こえた気がして、ふと足を止める。
そして、玄関のドアノブに手をかけてから……一度振り返り、部屋を見渡す。
誰もいないのに、成宮さんの存在をそこかしこに感じる部屋に、胸がキュッと鳴くようだった。
ふたりで囲んだテーブル。洗濯物を畳んだソファ。絨毯の上に成宮さんを座らせて、かけてあげたドライヤー。
ここからは見えないけれど、ふたりで並んで眠ったベッドや、掃除する度に泡だらけになってしまう大きなお風呂。
成宮さんは、自分の身体の大きさをわかってない。だから、あんな泡だらけになっちゃうんだって、教えてあげればよかったな、と思い笑みがこぼれる。
カボチャの硬さでケンカになったキッチン。
ふたりで食べた、アーモンドチョコ。……甘い、キス。
『好きだ』
成宮さんらしい、とてもシンプルで直球の告白。
この部屋で過ごしたのなんて、たった二十日間だけなのに、私が過ごしてきたそれまでの二十年以上の月日よりもとても大きなものに感じた。
ここで、たくさんの気持ちを見つけて、たくさんの幸せを知った。
成宮さんに……教えてもらった――。
「私も……好きでした」
誰もいない部屋に、一言だけ残し……ギュッと目をつぶったあと、ドアノブを持つ手に力を込める。
そっとドアを開け見上げると、すぐに微笑みが降ってくる。
見慣れたはずの優しい微笑みが機械的に見えるのは、感情を隠そうとしない成宮さんの笑顔を近くで見すぎたからだろうか。
すっと感情の温度が下がった気がした。
「探したよ。彩月」
「……すみませんでした」
「マリッジブルーって言葉があるくらいだし、彩月もそうなのかと思って自由にさせたけど……さすがに、他の男のところにいるって聞いたら放っておけないから。ごめんね、彩月が望むなら一ヵ月間騙されてあげるつもりだったんだけど」