過保護な御曹司とスイートライフ
「今日、本当は遠目に彩月の顔だけ見たら帰るつもりだったんだ。でも、たまたま女性社員が彩月が副社長と同棲してるなんて話してるのを聞いて……それでここに」
辰巳さんに怒っている様子はなかった。
それが余計に私に罪悪感を埋め込むようだった。
優しい声にじわじわと追い詰められる。
急に、空気が薄くなったように呼吸が浅くなる。
「すみません。一度、家出してみたくて……でも、行き先を決めないで飛び出したから道端で路頭にくれてしまって。そこを副社長が見つけて手を差し伸べてくれたんです。それからこちらにお世話になってました。
自分の会社の社員だってわかりながら放っておくのは経営者側の立場からしてできなかったみたいで」
成宮さんの分が悪くならないよう、あくまでも経営者と社員という立場でという部分を強調する。
「私が頼み込んでここに置いてもらっていたんです。一ヵ月だけってお願いして……」
「だから、成宮って男は悪くないって言いたいみたいだね」
私の言葉を遮った辰巳さんをハッとして見上げると、眉を下げて微笑まれる。
「そんな顔しないで。大丈夫。彩月が帰るって言うなら、これ以上追及するつもりもない」
伸びてきた手が頬に触れた途端、違和感が生まれて……それがなんだかおかしかった。
たった二十日間で、私は成宮さんの手を覚えてしまったんだなってわかって。
キュッと唇を引き結んだあと、辰巳さんと目を合わせる。
そして「帰ろうか」と穏やかな声で言う辰巳さんにうなづいた。