ロング・バケーション
向かい側で食べているドクターは、フッと笑うと自分も口の中に頬張る。
一口食べて頷き、満足そうな表情をした。


「先生はお料理が上手なんですね」


彼を見ながらそう言うと、俯いていた顔が上がる。


「上手でもないよ。ただ毎日外食って訳にもいかないからね」


「でも、スゴく美味しいですよ。このドミグラスソースだって相当煮込んであるみたいだし」


「ああ、それはそうでもないよ。単純に圧力鍋を使って煮ただけだから」


「圧力鍋?」


「数分煮て置いておけば勝手に煮込んだ味に仕上がるから便利なんだ」


種明かしをするドクターは、圧力鍋一つあれば何でも調理が出来るから助かってると笑った。


「昨夜の鍋みたいに豪勢じゃないけど」


「そんな…あれはただ冷蔵庫内にある食材を放り込んだだけのものだし…」


しかも材料は実家にあったものを貰って入れただけ。
あんなもの、この料理に比べたら思いやりも何もない……。


ズーン…と落ち込んでいく気持ちを感じながらパクッとオムライスを口に入れる。
卵もソースも美味しいけれど、中のチキンライスもいい味付け。

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