ロング・バケーション
「祖父にお見合いを断ったら怒られました。以前から私に自分の財産を任せる気でいたものだから」


「財産?」


「祖父が所有している土地や建物のこと。両親は…と言うか、特に父は婿養子だから祖父はあまり信用していなくて」


幼い頃から遊びに行くと自分の財産は将来全部凛にやるからな、と言っていた。


「母は私と同じで土地や建物には興味が無くて、一人娘なのにしがないサラリーマンの父と結婚してしまったんです。

祖父はそんな結婚を認める気はなかったんですけど、入籍前に私が母のお腹に宿ってしまったものだから、渋々認めざる終えなくて」


そんな形で望まれない結婚を果たした両親に祖父は今でも頑な時が多い。

だから、本当は同居などしたくない母だったが、父が祖父一人では駄目だと言って同居を始めた。


「私なんて当てにしないで財産は両親に譲ればいいのに」


サラリーマンだけど父は誠実で真面目な人だ。
物静かで忍耐強くて私はとても尊敬している。


「…ふぅん。凛さんはお祖父さんに大事にされてるんだな」


ドクターはそう言うとスプーンを置いて手を組み合わせた。


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