君を忘れるその日まで。


『そこー!次の場所に行くんだから速く来てよ!』


前から聞こえてきた班員の声に、彼女は『今行く!』と答えて坂を降りていく。


俺は彼女の後ろ姿を眺めてから、自分の手に視線を落とした。


『…………』


もっと、触れていたかった。


『っ、』


唐突にそんな気持ちに駆られて、自分の頬が赤くなっているんじゃないかと心配になる。


『祐樹?行くよー?』


『あ、うん…』


前を行く彼女に気の抜けた返事で返せば、彼女は少し不服そうな顔を向けてきた。


『なぁに、その返事。あ、もしかしてまだ私のことバカだとか思ってるの?』


『それはいつも思ってるけど、今は違うよ』


『サラッと私を傷つけてくれたね。それじゃあ何を考えてたの?』


『……何も』


何故か視線を合わせられなくて、少し斜めを見て答えた。


『あ、今視線そらした!それに、答えるまでの間。絶対何か考えてたねっ』


『急に安い探偵みたいな真似をしても教える気はないよ。ほら、みんなが呼んでるから速く行こう』


『あっ、そのまま逃げようとしてるな〜!絶対に吐かせてやるんだからね!』


『はいはい。せいぜい頑張って』


意気込む彼女を置いて、今度は自分が前を歩いていく。


『あ…祐樹っ』


『何?』


何かを思い出したように俺を呼び止めた彼女に、体を半回転させて振り返る。


『さっきも言ったけど……ありがとう。
助けてくれて、嬉しかった』


『っ!』


それまで曖昧だった彼女の顔が、一瞬にして脳裏に焼き付いた。


照れくさそうに微笑むその頬は、ほんのり赤みを帯びて可愛らしさを覗かせる。


瞬間に、周りの空気を変えてしまうような華々しい存在。


そんな彼女を目の前で見つめながら俺は、やっぱり彼女のことが好きだと密かに思ったんだ。

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