君を忘れるその日まで。
「………………」
確かに今思い出した記憶を、もう1度振り返る。
やっと鮮明になった、彼女の顔。
「…っ、」
こみ上げてくる言い表せない感情に、何故か視界が歪みそうになった。
ずっと、こぼれ落ちていた彼女の記憶。
名前はまだ思い出せないけれど、彼女に1歩近づけたような気がした。
「ありえないって、思ったのにな……」
彼女が好きだ。
今までこぼれ落ちていたその感情は、彼女を思い出して急激に膨れ上がった。
忘れていた、懐かしい恋心。
俺は確かに、彼女に想いを寄せていた。
「俺が片想い、か……」
自分には似合わないその単語に、自然と口角が上がってしまう。
「祐樹ー!速く次行くぞ!」
「あ、うん!」
いつの間にか買い物を済ませた彼らの元に、軽い足取りで駆けていく。
このあとに待ち受ける急展開も知らずに、俺は1人浮かれた気持ちで旅行を楽しんでいた。