溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「気づいた? 椿が持っているのは左足用だ。こっちは右足用」

「どうして?」

「理由はこれを購入したのが僕だからだよ。母さんに頼まれて買いに行ったんだけど、右か左か聞かれて、さんざん迷った挙げ句結局決められなかった。で、一つを母さんに渡して、これはずっと自分で持っていた。人に見せるのが恥ずかしかったし、なんというか、無自覚だったんだけど、どこかで椿とつながっているとでも思っていたのかなぁ。毎年、年末が近づくと思い出してこれを眺めていたんだ。もうすぐ会えるって」

 確かに入院していた〝ゆりこおばさん〟がガラスの靴を買いに行けるわけがない。誰かが買いに行ってくれたのだ。

(ぜんぜん気づかなかった・・)

 もらえたことがうれしくて、それ以上のことに気が回らなかった。

(わたしって、ホントに鈍感でバカだ。誰が買いに行ってくれたのだろうって考えていたら、それをゆりこおばさんに尋ねていたはずなのに)

 そして教えられ、そこから話が展開されたら、とっくに真壁に至っていただろう。

「これも無自覚なんだけど、まさか母さんが椿の学費援助なんかするとは思わないから、退院したらもう会うことはないと思ってた。でも、これを持っていたら、いつかまた会えるんじゃないかって・・あの時、感じたんじゃないかな」

 椿はガラスケースの中で輝く右足用のガラスの靴を見つめた。

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