コガレル(番外編)~弥生ホリック~


「職場にまで押しかけてくる彼女を見逃せる訳ないでしょ?一般人にならまだしも、圭君はタレントなんだから」

 澤口は今まではモデル部門でマネージャーをしてた。
 以前からタレント部門に異動を希望していて、今回それが叶ったそうだ。
 モデル部門にはないドラマの現場も卒なくこなすし、俺のスケジュール管理も問題なくやれる。
 熱心な頭のいい女性だと思う。


「彼女をここに呼んだのは俺。考えが甘いって言いたいなら、彼女にじゃなくて俺に言えばいい」

 澤口は俺を睨みつけた。

「一時の感情で、仕事にダメージが出るんだよ?
人気絶頂なのに彼女がいると知られたら、間違いなく需要も減る」

 一時の感情?
 しかも俺を商品か何かと勘違いしてんのか?
 気を落ち着けるために深く息を吐いた。
 そうしないと怒鳴ってしまいそうだ。


「俺が役者してるのは彼女のため。他にできることも思いつかないし。
彼女がいなくなったら、芸能界を辞める。何とか食い扶持見つけて、ひっそり生きてくよ」

 手にしてたスマホの画面をつけた。
 ラインは未だに未読のままだ。

「私ね、雑誌で見た圭君がカッコ良くて衝撃を受けた。それで圭君に憧れて、この事務所で働きたいって」

 弥生に電話をかけてる間に、澤口はそんな話をしだした。
 どうでも良かった。
 もう澤口はどうでもいい。

 何度かけ直しても弥生のスマホは『電波が届かない場所か、電源が切られているため…』というアナウンスにしか繋がらない。

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