キミがくれたコトバ。
35.8



澄春が部屋から出ていった。

私は唇を噛み締める。

悔しい……。

人生で初めて澄春に負けたみたいで……。

私は何故、こんなことになったのだろう。

颯磨が日奈子ちゃんを好きと分かった日から、私は颯磨を略奪しようと思っていた。

実際、私の方が計算高いし、外見だって良いし、あの子に負ける要素なんて無いと思っていた。

なのに……、どうして……?

颯磨はあの子を選んだ。

澄春だって、あれ以来、私のことを怖がっていると思っていたから、協力してくれると思っていたのに……。

澄春は私よりも、自分よりも、日奈子ちゃんを選んだ。

何で……。

何でよ……。

何でなのよ!!

でも、本当はもう分かっているんだ。

日奈子ちゃんは……、馬鹿なくらい、素直で優しいんだ……。

私は、いじめられてから素直さと優しさを封印した。

友達が、掃除をきちんとしていなかったから、優しく注意しただけなのに……。

それなのに、分かってもらえなかった。

日奈子ちゃんならきっと、注意せずに、黙って自分がさぼっている子の分まで掃除をするんだろうな。

それは本当に正しいことじゃないと思うけど、きっとみんなからは好かれるんだ。

颯磨もきっと、そういうところに惚れたんだろうな。

だとしたら、許せないよ。

そんなの偽善者だ。

何も正しくない。

正しいことをしていないのに、颯磨を奪うなんて許せない。

その時、廊下に、ある人影が見えた。

「副生徒会長!」

私は呼び止めた。

「愛美さん。」

好都合だ。

「私と組みません?」

副生徒会長は、私の事情を把握しているだろう。

多分、澄春から全部聞いたはずだ。

だからこそ、話が早い。

「どこまでも最低だ。」

「貴方に言われたくない。」

今だって、自分がとてつもなく意地悪そうな顔になっているだろう。

別にそれでもいい。

澄春を陥れて、自分が上になった時の快感が、私にそうさせているんだ。

確かに昔はもっと、正義感の強い子だった。

でも、正義感が強いだけじゃ、生きていけない。

良いことなんて一つも無かったから。

「あと、私は貴方の事情を知らない。だから、教えてくれる?」

「言われなくても、教えますよ。」

なんか、いちいち腹の立つ言い方だなと思った。

でも、それは私も同じはずで、多分、私達は凄く似ているのだと思う。

明人さんは、ゆっくりと話し始めた。
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