キミがくれたコトバ。
35



バチンッ

照明がついた。

「澄春くっ……………。!?そ、そ、そ!?」

そんな……!!

「颯磨くん!?!?!?」

幻覚かと思い、何度も目を凝らす。

「日奈子……。」

ど、どう見ても颯磨くんだ……。

って……!

さっき暗闇で言ったこと、全部聞かれてた!?!?

わ、わ、わ〜!!!!!

恥ずかしくなって、私は慌てて部屋を出ようとした。

ガチャガチャガチャ

あれ!?

そ、外から鍵をかけられてる……!

「日奈子……?僕といるの、そんなに嫌……?」

颯磨くんが不安そうな目で私を見ていた。

「あ……ごめん。違うの。何か、恥ずかしくて……。」

な、何言ってるんだろう、私……。

「勝手に連れてきて、ごめん。」

「ううん、……嬉しい……。」

恥ずかしくても、でも、素直に言わなくちゃいけないと思ったんだ。

「良かった。」

「久しぶりに2人きりだから、ちょっとびっくりしただけ。」

「何が『2人きり』かな?」

頭の上から声が聞こえてきた。

颯磨くん……ではない。

「僕もいること、気づかなかったんですか?」

顔を見て、体が凍りついた。

「明人くん……!」

「明人……!」

澄春くんの言っていたことが本当だとしたら、明人くんは……。

「お久しぶりです、主席。そして、日奈子。」

明人くんがニヤッと笑う。

目が笑ってない。怖い……。

「その呼び方やめろって言っただろ。」

あれ、颯磨くんと明人くんって……、知り合いだったっけ……??


『それにね、最初にその記事が発行された時、颯磨くんは、学校中の張り紙を、日奈子ちゃんが来る前に、全部剥がしたんだよ。』

京くんの言葉。

『それ、全部明人さんが裏で手を回して、日奈子ちゃんを絶望させようとしてたんだよ。』

澄春くんの言葉。

もしかして颯磨くん、ずっと私のことを守ってくれていたの……?

「でもまさか、澄春くんが裏切るとはねぇ。」

「お前、やっぱり澄春にも手、出してたのかよ!」

「流石の主席は予想がついていたんですね。」

再び明人くんがニヤッと笑う。

「あの子は人間不信みたいだったし、都合が良かったんだ。」

都合……?

澄春くんはあんなに嫌な思いをして、今でもそれを引きずってるっていうのに……。

「絶対、上手くいくと思ったのに……。」

「ねえ、明人くん……。」

私は遂に黙っていられなくなった。

「明人くん、どうしちゃったの……?」

前は、王子様みたいだったのに……。

「どうもこうも、これが本当の僕だよ。お前と付き合ったせいで、僕はいじめられたんだよ。この僕が!」

え……?

いじめられた……?

完璧だった明人くんが……?

「お前の身長のせいだよ。」

「明人!!」

叫ぶ颯磨くんを他所に、明人くんは続ける。

聞きたくないのに、聞いてしまう……。

「お前のせいで、僕はロリコンだって、悪趣味だって、ずっと言われて続けたんだよ。」

何も言葉が出てこなかった。

「ふざけるな!明人!」

「じゃあ……、中学の時もみんな、私のこと、良く思ってなかったってこと………?」

訊きたくないのに、訊いてしまう。

「そうだよ。全員お前のこと、キモいと思ってるんだよ。」

「そんなことない!日奈子、絶対無いから!」

「正義のヒーローぶっちゃって。主席もそう思ってるんでしょう?」

そう……なの……?

「そんなわけ……!」

「嘘だね。人は心の奥底で何を考えているのか分からないから。実際、健吾くんも、そう言ったじゃないか。」

確かに……。

私のこと、小さくて可愛いって言ってたのに、本音は違った……。

「明人!いい加減にし……!」

「颯磨くん!!」

もう何も信じられないはずだったじゃん……。

なのに何で私は……、

「颯磨くん、もういいよ……。」

何で私は、颯磨くんのことを信じているの…?

「颯磨くんが私のことキモいって思ってたとしても、私は別に良いから……。」

「日奈子!何言ってんだよ!僕は……!」

颯磨くんは言わないでいてくれたから、それだけで十分だよ。

「日奈子。前に言ったけど、もう1度言う。」

颯磨くんが私を真剣に見つめている。

「日奈子の身長を見ていないって言ったら嘘になる。目を開けている限り、必然的に見えるものだから。」

颯磨くんが何を言おうとしているのか……。

それは分からないけど、凄く……心地良いんだ……。

「でも、だから何だ。身長が低いから何なんだ?」

低いから……、相手に不快な気持ちを与えてしまったり……。

「もし日奈子の身長が20cm伸びたら……。それでも日奈子は日奈子だろ?身長以外は何も変わらないよ。」

そんなの……、

「そんなの嘘だよ……。私は変わらないかもしれないけど、周りは変わるよ……。」

「そりゃ、変わる奴はきっと変わるよ。でも、変わらない奴だって、きっといる。」

「何処に……、変わらない人がいるっていうの……?」

そんなの、分からないのに……。

「少なくとも、僕は変わらないよ。」

っ……………本当……………?

「だって、身長が高くなっただけで、中身は日奈子だ。僕が好きなのは、いつも素直で、誰にでも優しい日奈子だよ。身長が高い日奈子じゃない。でもそれと同時に、身長が低い日奈子でもない。」

え……………?

「要するに、僕が好きなのは、日奈子の身長じゃないってことだ。身長が低くて不快に思ったことも無いし、身長が低いから特別可愛いと思ったことも無い。」

それって……。

「明人!ついでにお前にも言いたい。」

「何ですか?主席。」

「お前は、確かに日奈子が好きだったんだよ!」

へっ……!?

だって明人くんはこんな私が嫌だって……。

「な、何を言っているんですか!?」

「明人は、いじめられたことを、日奈子のせいにして、自分が傷つきたくないだけなんだよ。」

「い、意味が分からな……!」

「認めろよ!」

え、えっと、ど、どういうこと……!?

「最初は日奈子のこと、どうでも良いと思ってた。でも、日奈子の内面に途中から惚れた。しかし、クラスでいじめられるようになった。だから、日奈子を好きな自分を認めたくなくて、日奈子を突き放した。そして日奈子が絶望すれば、やっぱりいじめられていたのは日奈子のせいであって、自分のせいじゃないと、安心できるからだ。そうだろ?」

そんな……、そ、そうなの……?

いや、でも……。

「違う!」

でも……、

「でも私は、明人くんのことが好きだったよ……。明人くんは違ったかもしれないけど、私は、私は……っ。」

何故か泣きそうで、声が出ない。

でも、ちゃんと伝えたいことがある。

「同じ高校へ行こうって言われた時、凄く凄く嬉しかったし、いつも紳士的で、記念日も大切にしてくれる……。そんな明人くんが好きで、王子様たど思ってたよ……。」

今は、違うけど、当時はちゃんと、運命だと思っていた。

「ごめん……、キモいよね……。忘れてくれて良いよ、というか、忘れて。」

明人くんの表情からは、感情があまり上手く読み取れないけれど、何かが揺らいでいる気はした。

「何だよ、お前ら……。まず、鈍感な主席に、僕の気持ちなんて分かるわけないのに、何勝手に想像して語ってんだよ……。」

「分かるよ。」

颯磨くんが言った。

「確かに僕は小さな頃から勉強ばかりで、人の気持ちなんてよく分からなかった。でも今は違う。日奈子や大輔や京や澄春くんや健吾や明人に出会って、今まで起きなかったようなことが日常に起こるようになって、分かるようになったよ。」

颯磨くん……。

「うるさい!誰が何と言おうと、僕は日奈子が嫌いだ!」

面と向かって言われると、やっぱり傷つく……。

明人くんはそのまま部屋を出ていった。
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