人面瘡
☆☆☆

翌日、再びあたしの膝にはおつねの顔が出てきていた。


それは前回出て来たときよりもずっと鮮明になってきている気がする。


昨日図書館で見た女と瓜二つだ。


「あなたはおつねさん？」


あたしがそう訊ねると、おつねは目をギョロギョロと動かした。


しかし、返事はない。


低い唸り声を上げているだけだ。


「あなたはとても悔しい思いをしているのね。できればあなたの憂いを晴らしてあげたい。あなたの顔は一体どこへ埋められているの？」


それでもおつねは返事をしない。


時々真っ赤な舌を覗かせてニタリと笑ってみせるだけだった。


長年怨霊として過ごしてきたから、生前の自分を忘れてしまったのかもしれない。


あたしはおつねに話しかけるのを諦めて、右ひざにきつく包帯を巻きつけたのだった。
< 139 / 204 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop