泥沼!? 夢見るオトメの恋愛事情【完】
「じゃあね」
「おぅ、またな」
家の前で別れる。
家の鍵をポケットの中から探す間、
ゆっくりと離れていく背中と、急に静かになった世界を感じながら、
いまさら私は、橘が遠回りしていたことに気づいた。
トクンと心臓が揺れた。
私は、あいつを好きになり始めているのだろうか。
たぶん、そうだ。
でも橘を選ぶと、
いままでセンに向けていた色々なものを、
全て裏切ってしまうような、
全部捨て去ってしまうような、
全否定してしまうような、
得体の知れないもったいなさ、を感じるのも確かだ。
けれど、なにも言わずに遠回りしてくれた橘に、心の端があったかくなっているのも確かだ。
そんな風に考えを巡らしながら、眺めていると、橘は不意に振り向いた。
「ーーーーっ!?」
何気なく手を振る橘に、心臓が波打つ。
その笑顔なのか、その仕種なのか、その雰囲気なのか、
はたまた、それら全てなのか分からないが。
私は、ときめいた。
ときめいて、しまった。