別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「ゲホッゲホッ」

苦しい。

今日のことを悩んでいたため、昨日はほとんど何も食べていない。

今朝だってコーヒーしか飲んで来なかった私に、吐き出せるものは水分くらししかない。

それも全部吐いてしまったのに、まだ吐き気はおさまらず、胃液も吐いてしまう。

「…あき…」

情けない。

もっと強くなって、秋と別れなきゃいけないのに。

私はまだ、こんなに弱い。

しばらくして、ハンカチで口元を押さえながらトイレを出たら、少し先の壁に秋が寄りかかって腕を組んでいた。

「…大丈夫か?」

「え?やだなあ大丈夫だよ。お手洗いに行っただけ」

笑ってみせたけど、さっき少し泣いたから目は赤いだろう。

実際、秋の固い表情も変わらない。

「病院行こう。俺も午後休み取るから」

「え?いいよ。
そんなに大袈裟なものじゃないよ」

「なんで俺の前で無理すんだよ!
ここ1ヶ月以上ずっとおかしいじゃないか。
一度診てもらったほうがいい」

「行くならひとりで行くよっ
私のことはほっといて仕事して――」

「ほっとけるわけないだろ!」

誰もいない廊下に秋の声が響いて、言葉に詰まった。

「もう付き合ってることがバレてもいいよ。
俺はそんなことより加奈の身体のほうが心配だ」

ダメだよ。そんなのダメだよ。

私はここを辞めるつもりだからいいけど、秋は…

私と付き合ってる噂が出た後に婚約発表なんてことになったら、悪い評判が立ってしまう。


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