《クールな彼は欲しがり屋》
化粧室で用を済ませ、また深いため息をついてから私は沈んだ気持ちのままでトイレを出た。
いったいこれから、どうしよう。
考えても解決法が見つからない。頭がごちゃついていた。
例えて言うなら、狭い部屋には整理すべき服が沢山あるのに、うまく整頓出来ない。よって散らかったままの状況。その状況に近い感じだ。
急に片付けられない女になってしまった気分だ。
化粧室を出てすぐ、こちらの方向へ歩いてくる人物がいた。その人物を見て反射的に飛び上がっていた。再び化粧室へ戻り、急いでドアを閉める。
幸いなことに、このレストランの化粧室は男女に分かれている。
ま、まずい事態だ。
沢田課長が化粧室に来ちゃった。
ここは、待とう。
落ち着いて沢田課長が化粧室に入った頃を見計らって外へ出よう。それが一番の得策だ。
こんな場所でばったり会ったりしたら、きっと何か過去を思い出すようなことを言われてしまう。
いずれ何かは言われるかもしれないが、それは今日でなくてもいいだろう。
私はドアに耳をあて、隣の男性化粧室のドアが開閉する音を聞き逃さないように耳をすました。
初日くらい、なるべく平穏に過ごして終わりたい。
2分くらいたって周りを窺いながらゆっくりドアを開けて外へ出る。
ほっとして胸を撫で下ろした時、右の方から視線を感じた。
「!!」
ドアを閉めてから気がついた。ドアに隠れ見えなかった場所に沢田課長がいたのだ。
驚きで声を出せなくなり、口を金魚みたいにぱくぱく動かしていた。