《クールな彼は欲しがり屋》
冷や汗が脇の下をつたう。
新しく異動してきたばかりの営業部。
まさか、こんな展開になるなんて思いもしなかった。
「特別な理由は無い。時間に余裕ができただけだ」
沢田課長は、冷めた笑みを浮かべただけで口を閉じた。
良かった。
特にこれ以上何も言うつもりは、無いようだ。
やけに喉が乾いたのでシャンパンを飲み干し、グラスについであった水も喉をならして飲んだ。
料理も運ばれて来て、ようやくぎこちない雰囲気が和やかなムードへ変化してきた。
会話は大手の食品会社の「海苔のCM」コンペの話になった。営業部に来て、まだ1日の私にはよくわからない話もあったが会話の流れは止めずに熱心に聞いていた。
中でも温厚な和泉さんがコンペの話を熱く語る姿は意外な気がしていた。
「絶対取りたいですよね、この仕事」
「そりゃそうよ。うちらみたいな会社が大手の代理店に勝てたら嬉しいものね」
佐野さんは、食べるより飲む方が好きみたいだ。さっきから話の合間にワインのグラスを傾けてばかりいる。
私はと言えば水をのみすぎたのか化粧室に行きたくなり、席を離れて個室から出た。
長いため息をつき、ゆっくりとした足取りで化粧室へ向かう。