彼の甘い包囲網
「これを集計しておいてくれる?」

「はい」

「使うソフトはこれね。
あ、わからない箇所があったら声をかけてね」

優しく業務を教えてくれる、入社三年目の永石杏奈さん。

明るい茶色の長い髪をゆるくシュシュでまとめている。

スラリとした長身に大きな猫目が目立つ綺麗な女性。

初日に私の指導係だと挨拶をしてくれて、同姓の男性がいるから是非名前で呼んでねと気さくに笑ってくれた。

最初は恐れ多かったのだけれど、周囲の大勢の人がそう呼んでいるのを聞いて。

以来、私は杏奈さんと呼ばせてもらっている。


私は開発事業部に配属された。

主に不動産や遊休地の開発、再開発等を主軸とする部署だ。

私はまだ何の即戦力にもならず、現在営業アシスタントといった仕事に従事している。

学生の頃とは違う責任感の大きさは勿論、社会人になったのだという思いで身が引き締まる。

まだまだ緊張はとけず、自宅に戻ってやっとひと息つけれる、といった日々を過ごしている。

杏奈さんのようにテキパキと仕事をこなせる女性になることが目標だ。


「お先に失礼します」

まだまだ即戦力にもならない私は、ほぼ定時に帰らせてもらっている。

「お疲れ様、気をつけてね」

書類を抱えながらも杏奈さんが優しく微笑んでくれた。

私はペコリと頭を下げて退室した。

< 106 / 197 >

この作品をシェア

pagetop