彼の甘い包囲網
「独身?」

「そうみたい。
あ、でも婚約者がいるとか聞いたような……。
三原先輩が同じ高校だったんだって。
スッゴいモテてたらしいよ。
彼女候補の数が半端なかったって」

「これだけイケメンだったら、そうだろうね。
本命の彼女とかいるのかな?
立候補したい!」

「住む世界、違わない?
超セレブだよ?」


彼女達の話を聞いた瞬間。

動揺している自分に気付いた。

ドクドクと鼓動が速まるのがわかる。

立っていることが辛い。


彼女でもなく、付き合ってもいない私は。

奏多と自分との関係を誰にも説明できない。


婚姻届を書いたとはいえ『書いただけ』で何の法的効力も恐らく、ない。

お互いの気持ちをわかっているわけでもない。

お互いを縛りつけるためだけに書いたようなもの。

そんな関係を何て言えばいい?



奏多が私のものではないことなんて百も承知なのに。

とられてしまいそうな、そんなズルい気持ちで。

魅力的な女性と奏多が知り合ってしまったらどうしようという不安。

表現できないドロドロした暗い気持ちに心が埋め尽くされる。



一瞬でも奏多が私以外の女性に興味をもったらどうしよう、嫌だ、と思ってしまった。

住む世界が違う、それは私が隣にいることはふさわしくないと暗に言われているようだった。

彼女達がそんなつもりで言ったわけではないとわかっているのに。

膿のような暗い感情と底無し沼のように深く不安な気持ちが込み上げてどうしようもなかった。

……どうしてこんな気持ちになるのか。

わけがわからなくなって、私は雑誌を置いて逃げ出した。

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