彼の甘い包囲網
「楓!」

ガチャン、と荒々しい音をたてて奏多が飛び込んでくる音がした。

「柊、楓は!」

「はあ?
お前、何した!
いきなり部屋に閉じこもってるぞ!」

「ああ、それは奏多が楓ちゃんに……」

「黙れ、充希!」

「何なんだ、お前ら!」

……夜更けにギャーギャー迷惑極まりない社会人男性達。

この間もあったな、こんなこと。

「……とにかく!
楓と話す」

充希くんが兄をリビングに連れていってくれたのか、廊下が静寂に包まれた。

「……ごめん、楓。
恥ずかしかった、よな。
お前が可愛すぎて、どうしてもキスしたくて……。
止まんなくて。
いや、俺……あーもう、マジでカッコ悪い……。
頼む。
頼むから、出てきて。
もうあんな人目につくところでキスしない。
約束する。
頼む……きちんと柊にお前とのこと話すから」


弱った奏多の声がドア越しに聞こえる。

これは、誰?

いつも堂々として。

余裕の表情で。

飄々と女の子をあしらっているのに。

何でこんなに狼狽えているの?

初めて聞く焦った奏多の声に。

閉じこもっていた自分が可笑しくなって。

カチャリ、とドアを開けた。

「……約束、だよ?」

奏多に顔を半分出して念を押すと、眩しい笑顔が返ってきた。
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