彼の甘い包囲網
「秘書だから。
当然」

何でここにいるんだ、と車から降りた途端に噛みついた奏多に。

充希くんがシレッと笑顔で言った。

「……車内で楓ちゃんに襲いかかるのはどうかと思うよ」

「はあ?
お前、見たのか?
今すぐ忘れろ!」

「……いやぁぁっ!」

思わず叫んでしまった。

「楓ちゃんにがっつきすぎ。
暫く会ってなかったとはいえ、公衆の面前は楓ちゃんが可哀相」

「……うるさい、だから何でお前がここにいるんだ」

「柊から聞いた」

「あーもー、何で俺の秘書は揃いも揃ってこう不遜な奴ばっか……」

「選んだのは奏多」


どうでもいい会話を繰り広げる二人。


もう、何、何なの!

何でこんなことになるの!

それよりも。

キス、充希くんに見られた……!

恥ずかしすぎる……!

「もう、知らないっ……!」

言い切って私は自宅に向かって駆け出した。

「あ、おいっ楓!
走るな、危ないだろ!」

「……この期に及んでそれって……痛いな、奏多」

「うるさい!
楓、待てって!」

相変わらず言い合っている二人を見捨てて私は走り続けた。

二人を待たずにエレベーターに乗り込んで閉ボタンを連打した。


エレベーターが八階に着いたら再び走って。


ガチャンッ。

鍵を開けて部屋に飛び込んだ。


「おいっ、楓?!」


兄がリビングから飛び出してきた。


ドンドンっと私の部屋のドアを叩く。

「お前、何かあったのか?
奏多はどうした?
おいっ!」

「ちょっと待ってて!」

真っ赤な顔の私はそう言ってドアに凭れてへたりこんだ。

もう色々ありすぎて私の頭は軽くパニックだ。
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